とある森の奥深くに構えられた小屋。そこでは少年が一人で暮らしている。赤く熱された鉄を打つ音だけが静かな森に鳴り響く。彼が打っている赤く輝く細身の刀身を見つめていると聞き覚えのある声が飛び込んできた。その声に反応して彼は勢いよく顔を上げた。
「やぁ、アスネル。久しぶりだな、元気だったか?」
「…クファナか。」
クファナの後ろからダイアーがひょこっと顔を出した。
「あたしもいるよ。」
「…。」
「無視とは失礼な!」
叫ぶダイアーを放ってクファナは少年—アスネル—の元に歩み寄った。
「今日はどうした?」
「刀身に罅が入ってね。」
クファナは慣れた手つきでスラリと剣を鞘から引き抜くとアスネルに差し出した。
「クファナったら根詰め過ぎなんだよねー。まるでわざと刀を折ろうとしてるみたいでさー。」
ダイアーは後半をぼそぼそ呟いた。クファナとアスネルにはダイアーが何かつぶやいた程度にしか聞こえていなかった。
「何か言った?」
「ぜんぜーん。なーんにもー。」
ダイアーは一人ニヤニヤしながらアスネルの小屋から離れて行った。
「全く、何なんだ。相変わらず変な奴。」
「そういうお前も相当変だろ。」
剣の具合を見ながら、アスネルは言い切った。
「俺が刀鍛冶として一人前になってからずっと俺の所に来るよな。都市にも鍛冶屋くらいいるだろ?何もこんな誰も踏み入らないような山奥にわざわざ…。」
「…別にいいだろ。都市のチンピラ鍛冶屋よりアスネルの方がずっと腕がいいんだよ。」
アスネルは顔を上げなかったために気が付かなかったが、クファナの頬は多少赤くなっていた。話を逸らそうとクファナはダイアーが放って行った鞄に目をやった。開け放たれた鞄の中にはダイアーにしか分からないような得体の知れないものがたくさん入っていた。
「いつもこんなの持ち歩いてるのか…これ何だろう?」
一番目立っていた赤色の物を取り出した。握り拳より二回り程大きな石だった。
「綺麗な石だな。」
「クファナ。」
「あ、直せそうか?」
「いや、この剣はもうガタがきてる。直してもいいが、またすぐ折れる。それなら新しいのを打った方がいい。」
クファナは少し考えていたが、直して欲しいと言った。
「ずっと使ってるこの剣には愛着があるから。」
「そうだよ、だって、ねぇ?」
どこからともなく2人の間に出現したダイアーに対して2人も反射的にのけぞった。そしてダイアーは視線をクファナの手元にやった。
「あ!何してるの!これはただの石じゃないんだよ。『エルレフィール』って言うすっごく珍しい石なんだからね!」
ダイアーはクファナからエルレフィールを取り返しながら言った。そんなダイアーにあきれながらクファナは呟いた。
「そんな大事な物持ってくるなよ。」
アスネルが刀身の打ち直しには時間がかかると言うので、クファナとダイアーは泊まることになった。2部屋しかない小屋の1室を借りてアスネルの打つ音を聞きながら2人は眠りについた。
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