「ない!ないないない!」
翌朝クファナが日課の素振りを終えて帰ってくると、ダイアーが鞄の中の怪しい物(ぶつ)の数々を床にぶちまけていた。
「おはよう。どうした?朝から元気だな。」
「クファナでしょ?」
泣きそうな顔でダイアーがクファナにしがみついてきた。
「エルレフィール…盗ったの、クファナでしょ?」
「あの赤い石?昨日返してから触ってない。」
ダイアーの叫ぶ声でアスネルが2人の元に来た。
「おい、どうしたんだ?」
「エルレフィールをクファナが盗っちゃったの!」
「盗ってないって!アスネルも何か言ってやってよ!」
アスネルはポカンとした後、言った。
「…エル何とかってやつをとったのは俺だ。」
2人が予想していたものとアスネルの答えが違った為、ちょっとした沈黙があった。我に返ったダイアーはアスネルに突撃した。
「もう!盗ったんなら返して!」
「悪い。捨てた。」
「はぁ!?」
叫んだのはダイアーだけではなかった。
「捨てたって、どういう…。」
アスネルの答えはいたって簡単だった。ダイアーは本当に泣き出した。
「アスネルの馬鹿!大っ嫌い!!」
クファナはダイアーを呼び止めたが、その声を聞かず、アスネルの悪口を言いながら駆けて行った。暗い顔のアスネルを振り返って言った。
「今の、嘘だろ。」
「…何でそう思う?」
「正直者が嘘ついたってすぐ分かるんだ、特にアスネルは。何で盗って捨てるんだよ。下手くそすぎるだろ。ダイアーだって馬鹿じゃないんだ、今は気が動転してて気が付かなかっただけだろうけど、頭冷えたら気が付くだろ。何で嘘ついたんだよ。」
アスネルは少し下を向いて答えた。
「…。お前が責め立てられてるのを見たくなかったから。」
驚いて聞き返すタイミングを逃したクファナに持っていた剣を押し付けて言った。
「直ったぞ。ダイアーは戻ってきたら俺が何とかしておく。もう帰っていいぞ。」
半ば追い出される形でクファナはアスネルの小屋を出た。その小屋の中から一言だけ聞こえてきた。
「頑張れよ。」
その頃、ダイアーは隠し持っていたエルレフィールを握りしめながら、森の中を歩いていた。
「とーんでもなく意外な答えだった。クファナを責めたらアスネルが絶対庇うと思ってはいたけど、まさか『捨てた』とは!あの2人ほんとに鈍いんだから。お互い好きだってことに何で気が付かないのかな?傍から見てたらよく分かるのに。せっかくあたしが悪者になったんだからあっちはいい感じなってるといいんだけどなー。」
そう独り言を言うダイアーの後ろには影が潜んでいた。
一方でクファナは考え事をしながら飛び出していったダイアーを探していた。抜け目のないダイアーがない、というからには盗られたことに間違いはないのだろうが、寝ていたとはいえクファナのすぐ近くを通った、ということになる。そうなると、相当の腕の盗人である。その人物はもう下山しているかもしれない。
「何もしてないアスネルのせいにはできない…。」
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