クファナがダイアーを探して森の中を走り回っていると、甲高い悲鳴が静かな森を貫いた。「ダイアーだ」とクファナは声のした方に走って行った。
悲鳴をあげたダイアーは口を押えながら後ずさりしていた。目の前に立ちふさがっているのはダイアーの2倍はあろうかと思われる熊だった。異常に気が立っている。
「この辺りって…あんたのテリトリー…?」
熊と距離をとっていたが、突然駆けだした熊の速さにかなうはずもなく、背中にのしかかられてしまった。手の中のエルレフィールは転がって一匹の子熊にぶつかって止まった。子熊がいたから親熊は殺気立っていたのだった。そのことに気が付いてダイアーは恐怖できつく目をつぶった。親熊が鋭い爪を振り上げた瞬間、一番聞きたかった声が響いた。
「ダイアー!」
クファナは親熊にタックルをかましてダイアーの上から退かせ、その勢いのまま親熊の腕を切りつけた。親熊が退いたその隙にダイアーを引き離した。
「子熊の前の、石、取れる?」
「あのな、あんまり危ないことに首を突っ込むなよ。」
「クファナ!前!!」
縮こまっている子熊の前にあるエルレフィールを取ろうとしたクファナを再び親熊が襲った。後ろに一跳びし、再び切りかかったが、剣は運悪く爪に当たり、親熊の体重に耐え切れなくなった剣は折れてしまった。
「クファナ!!」
ダイアーが叫ぶとほぼ同時にクファナは後ろに引っ張られ、親熊は別の剣によって制された。別の剣を持った人物はアスネルだった。
「アスネル!」
「ほら、ここからはお前の番だろ?」
アスネルから剣を受け取ると、再びとびかかってきた親熊を退け、子熊共々森に帰した。
「クファナ…。よかったぁ。」
「アスネル、ありがとう。助かったよ。」
「いや。」
ぶっきらぼうに答えたアスネルにクファナが剣を返そうとすると、アスネルは首を振った。
「返さなくていい。それは元々お前に打った剣だから。」
少し赤くなったクファナがそっぽを向くのを横目で見ながらダイアーはアスネルに向き合った。
「あのね、エルレフィール見つかったんだ。疑ってごめんね。」
「あぁ、気にするな。」
謝りつつ、ダイアーは「ほんとに鈍いんだから。次はどうやって近づけようか」と考えていた。
ダイアーの荷物を取りにアスネルの小屋に戻った。
「じゃあ、あたしたちは帰るから。」
「じゃあね。」
「あぁ。」
ダイアーが気を利かせてそそくさと離れるのを見届けて、クファナはアスネルに告げた。
「また、来るから。」
アスネルはちらっと見ていつも通り返した。
「あぁ。構わない。いつでも来い。」
アスネルの小屋の後ろ、他人に見えないようにしてある陰には打ち損じた剣の失敗作の残骸が数多く積みあげてある。その中の多くにKhufana(クファナ)と刻まれていることはまだ誰も気が付いていない。
おしまい
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