ここは田舎の小さな村。特に何も変わったところのない、ごくごく普通の。しかし、この村には微力ながら魔力を持つ者がどの時代でも1人いる。そして古くから伝わる伝説が1つある。「5代の旅人」という村を救ったという魔力を持つ人の話だ。語り部によれば、今までに5人いたらしい。それぞれの話は忘れられているが第5代・5代の旅人アマラについては伝わっている。彼女は火を使う魔術師だったとか…。
子供達はこの村を救ったという偉大な旅人たちの話を聞いて育つ。もちろんただのおとぎ話として。魔術師家系は1つだけ。どの時代にも魔術師は1人。先代が亡くなると、一番年下の者が魔力に目覚める。
いつからそんなことになったのかは不明だが、魔術師は5代ごとに旅に出ている。村を救うために。
アマラの話から約370年後、シェケルは祖父が亡くなったことにより2歳の時、魔力に目覚めた。
現在、シェケルは16歳。彼女の使える魔術は縮小魔法。縮めたり、元の大きさに戻す、という能力だった。村唯一の魔術師にも関わらず、今のところ縮小魔法は何の役にも立っていない。こんな時に限って悪戯っ子たちは役立たずだとからかうために伝説を使う。伝説や逸話が好きなシェケルにとってはただの苦痛だ。
「もう放っておいて!」
と何度叫んだことだろうか。少なくとも、自分は、魔術師家系の者として誇りを持っている。他人にごちゃごちゃ言われる筋合いはこれっぽっちもないはずだ。
ところが、ある日異変が起こった。ただの風邪だと思われていた症状が治まった後、身長が縮んでいたのだ。こうなると真っ先に疑われるのは縮小魔法使いである。村人は当然のようにシェケルに詰め寄った。
「元に戻せ!」
「私じゃない!何もやってない!」
試しにシェケルは元の大きさに戻そうとしたが、何も起こらなかった。人々の恐れから、シェケルは隔離され、長老たちは話し合いの場を設けた。その結果、シェケルは一番の年寄ニダの家に呼ばれた。
「こんばんは。シェケルです。」
「シェケルか。お入り。…今回の事は残念だが、お前の疑いを晴らしきらん。それでだが、お前は『5代の旅人』の伝説を覚えているかね?よろしい。お前はこの話を作り話だと思うかね?」
「いいえ。本当に起きたことだと思います。」
「お前の言う通りだよ。多少歪んだかもしれないが、事実だ。」
ニダは伝説のように5代ごとの魔術師が旅に出ていることを告げ、アマラが持ち帰ったという「鍵」をシェケルに渡した。
「知っての通り、アマラは火の魔術師だ。その時は火傷の症状が出たそうだ。シェケル、お前が6代目の5代の旅人だ。アマラの辿った道を辿りなさい。わしらのような力なき者には分からんが、その鍵が助けてくれるはずだ。心配せんでも、お前はわしらが見えなくなる程縮む前に必ず帰ってくる。これまでの魔術師がそうだったようにな。」
「…分かりました。明日の朝早くに出ます。どこに向かえばいいか分かりませんが。」
「…すまないね。若ければお前の旅について行くことも面白いだろうが、他の者は誰もついて行きたがらなかった。…旅の途中にて佳き出会いを、この村全体の幸運がお前の行く道に向くことを祈っておこう。」
翌朝早く、村が起き始める前にシェケルは動き出した。シェケルは村の門の前でニダを見つけた。
「あ…おはようございます、ニダ。」
「わしだけでも見送ろうと思ってな。間に合って良かったよ。…気を付けてな。」
「行ってきます。」
シェケルは一人村から踏み出した。
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