2人の魔術師はシェケル一行に近づいてきた。先に話しかけてきたのは女の魔術師の方だった。
「誰?」
「私は5代の旅人、シェケルです。」
「あたしはクファナ、用心棒みたいなやつさ。で、こっちがダイアー。」
シェケルたち3人が名乗ると、魔術師も名乗った。女魔術師はキナ、もう一人の男魔術師はトヤという名だった。彼らはお互いにリエルから受け継ぐ古の力の正当なる後継者である、と言った。しかし、後継者は2人も必要もない。300何年か後まで首位魔術師として君臨し続けるのはどちらが相応しいか、力の大きさも関係している。最後に残ったのがキナとトヤ、どちらも強大な魔力を持つ魔術師だ。
2人は5代の旅人であるシェケルが決めることができるのなら、黙って手を引いてもいい、と言った。
「シェケルが決めてもいいんだけどさ、まだどっちがいいなんて分からないよね?」
「…うん。」
シェケルが困ったように返事をすると、暫くして2人の魔術師は再び離れて行った。シェケルが決めきれないなら、自分たちで決着をつけよう、ということだった。シェケルは村の事を考えると、こんなところで迷っているわけにはいかなかった。どちらが信用できるだろうか?今会ったばかりで自分より強力な2人魔術師なのに。とてもじゃないけれど、判断材料が少なすぎて決めきることはできない。
リエルは自分の後継者となる2人をキープ鉱山の岩杯に貯めた水を通して見ていた。2人はリエルの宗子、子孫だった。シェケルが迷っている様子も見えた。シェケルを傍観者にしては埒が明かない、と判断を下しシェケルに手を貸すことにした。
不思議な風がシェケルの周りを取り巻いた。
『…シェケル…シェケル…』
「リエルさんの声!」
「あたしには聞こえないな。シェケルにだけ用があるってことだろうよ。」
『…直感を信じて。…2人の違いは何?』
それだけ言って声は途切れてしまった。
「リエルは何だって?」
「直感を信じてって。2人の違いは何かって。」
「シェケルは直感的に、どっちがいいの?」
シェケルは力をぶつけ合う魔術師にじっと目を向けていた。2人の真意は実際、よく分からない。口では何とでも言うことができる。纏う雰囲気だけで、直感で選ぶとしたら、何となくトゲがあるように思えるキナよりは、何となく安心感を与えるトヤだろうと思った。
「キナさんよりはトヤさんかな。」
「じゃ、あたしたちも!そうだよね?」
「そうだな。…ん?あのさ、トヤの方、押されてないか?」
クファナが指す方にシェケルとダイアーが振り返ると空中でトヤがキナの力に押されてじりじり後退していた。リエル程魔力が強いと、離れていても使っている魔術の種類が分かってしまう。300年以上生きているリエルにしてみれば、まだまだ幼き魔術師であるシェケルの判断材料になればよいと、再び力を使った。
キナやトヤには見えないようにリエルは力を送り込んだ。シェケルには、キナの周囲に暗雲が立ち込めているのが見えた。シェケルはキナの周囲を指差してクファナに尋ねた。
「あの黒いの、何だと思う?」
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