「あの黒いの?何のこと?」
「あたしらには見えないな。シェケルにはどんな風に見える?」
「真っ黒な雷雲みたい。キナさんの周りだけ渦巻いてる。」
シェケルがダイアーの方を向くと、ダイアーは自信なさげに答えた。
「使っちゃいけない魔法が幾つかあるって、聞いた事あるよ。でも、見たことないし、細かいことって何にも本に載ってないんだ。だから、その、正確には分かんない。」
暫く考え込んだ後でシェケルは口を開いた。
「ありがとう。私にはあの黒いものがよくない何かに見える。私は、私を助けてくれる人としてトヤさんを選ぶよ。」
「よし、じゃあ、今度はどうやってあの2人を止めるかだな。」
クファナの言う通り、魔術師の周りには爆音と光線が飛び交いまともに近づけるものではない。叫んだところで声が聞こえるはずはなかった。
「助けてもいいんだけど、どうするの?力ずくってわけにはいかないよ?」
「そうだよな。…キナだけが使ってて、そのせいでトヤが押されてるんだろ?」
「うん。」
「だったら、キナを小ちゃおう!」
「うん?」
ダイアーが提案したことは、キナ自身、ではなく、キナの「力」を縮める、ということだった。後継者になろうとする2人に比べたら、シェケルの力は微々たるもので、莫大な魔力をどこまで縮めることができるか分からなかったが、迷わず承諾した。自分の次の「5代の旅人」や村のことを考えると怪しい力と思われるものを使う者に託すわけにはいかなかった。
「じゃあ、いくよ。」
シェケルはキナが放つ力だけに集中して力を放った。いきなり乱入してきた小さな力にトヤもキナも気が付いた。シェケルの乱入によってわずかな間気を削がれたキナは、シェケルに力の中心を押さえつけられた。
「やめて!離して!」
「あなたには任せられない!」
「シェケルは気づいたのか。」
攻撃が止んだことで形勢は逆転した。クファナはそれを見てトヤに向かって叫んだ。
「これ使えるか?」
クファナがトヤに投げて寄越したものは短剣だった。
「エレヴァンか…。借りるぞ!」
トヤは鞘から抜き払って、そのままキナを突いた。キナは悲鳴を上げ、気を失ったが、血は出なかった。代わりに暗赤色の髪が黒く変色した。キナの力の源を断ち切ることに力を使い果たしたシェケルは、そのまま気を失い、クファナが傍の木陰に抱えて行った。
そうしているうちに魔術師同士も決着がついたようで、気を失ったキナを抱えてトヤが降下してきた。
「助けてくれてありがとう。エレヴァン、この短剣の名前なんだけど、これみたいな剣を持ってる人って珍しいよ。」
「あたしには魔力がないからかな、それ、抜けないんだ。質屋にでも売りつけてやろうかと思ったけど、あんたにやるよ。」
「いや、返すよ。この短剣はまたいつか役に立つよ、きっとね。」
トヤはクファナにエレヴァンを返し、木にもたせかけているシェケルとその横で心配そうに座っているダイアーの元に向かった。
「シェケルは平気?」
「大丈夫だ。力を使い過ぎただけだよ。」
「キナはどうなったの?」
「キナは魔力の持たない普通の人間に変わったよ。エレヴァンは使い方によっては魔力を吸い取れるんだ。これが彼女の力、いや、彼女の力だったものさ。」
トヤが取り出したのは暗赤色の珠だった。
「最後の闘いで敗れた魔術師は力を奪われるんだ。残酷な運命だけどね。」
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