「その珠どうするんだ?」
「ここでは処分できないから、僕の研究室に移るよ。だけど、その前に少しやることがある。」
トヤはそう言うとキナを少し離れた木にもたせかけた。その横に小さな袋を置いた。戻ってきたトヤにダイアーが興味津々で尋ねた。
「キナに何したの?」
「これから、魔術なしで生活するわけだから、少し手助けを、と思ってね。」
クファナがシェケルを背負うと、トヤは円になって手を繋ぐように言った。
「僕の魔力が体の中を一瞬だけ走って、移動で飛ぶ時に意識のないシェケルの負担を軽くするから君たちは少し痛いかもしれない。」
トヤの力で研究室に移った。トヤは、「少し痛いかもしれない」と言ったが、少しどころではなかった。
「すんごく痛かったよ!」
「あたしもだ。」
「ごめん。シェケルに合わせたからかな、2人に思った以上の負担がかかったみたいなんだ。シェケルはまだ起きそうもないね。じゃあ、そっちのソファーに寝かせておいて。」
シェケルを寝かせると、トヤは何かが入ったフラスコや試験管を引っ張り出してきた。そして、その中身を混ぜ始めた。ダイアー曰く、「面白そうな、よく分からなくて、怪しい変な液体」が出来上がると、キナの魔力の珠をその沸き立った液体の中に落とした。
「溶かしたんだ?」
「そうだよ。これでキナの魔力は完全に消えた。これでもう取り戻せないんだ。」
「そう聞くと、キナさんもかわいそう。」
いつの間にかシェケルが目覚めていた。
「あたしは遺志を継いでいく人たちを大勢見てきたから分からなくもないね。負けたら、そうなるって分かってたんだろ?トヤもキナもその覚悟もあったんだろ?分かってて、それでも手を引かなかったのはキナだ。」
「クファナみたいに気まぐれだったら、そこまでしないもんね!」
「こら!ダイアー!」
クファナとダイアーは部屋から駆け出て行った。2人を笑って見送ったトヤはシェケルに言った。
「リエル様から受け取って受け継いできたもの、出してくれる?」
「はい。この鍵です。」
シェケルから鍵を受け取ると、鍵に話しかけた。
「第5代首位魔術師にして5代の旅人付魔術師リエルの名において命ず。正当なる後継者トヤの前に姿を現せ。」
鍵はダイアーよりも小さな男の子に変化した。
「お呼びですか?」
「そうだよ。君の名前は?」
「鍵のイェルクです。聞きたいのは、シェケルさんの村のことですね?」
トヤがシェケルの村の事を聞くと、キナの魔力が消えてトヤが後継者だと決まった瞬間からすべての異常事態は解決に向かっているという返答が返ってきた。
「徐々に体の大きさが元に戻るはずです。」
「よかった…。」
「トヤ様はリエル様の所へ後で向かってください。リエル様から引き継ぐべき仕事諸々の説明を受けるようになっています。恐らく、逃げ回ると思うのでリエル様捕獲用に編籠を持って行った方がいいかもしれません。それと僕はリエル様の持ち物に戻るので、僕を連れて行くのを忘れないでくださいね。」
「忠告ありがとう。編籠を持って行くよ。長旅ご苦労様。」
トヤがそう言うと、イェルクはお辞儀をして元の鍵の姿に戻った。
0コメント