クファナとダイアーはまだ戻らない。
「今まで、君の村ではアマラの話を受け継いでいたんだろう?」
「そうです。」
「これからは君自身の旅を語り継ぐんだ。次の5代の旅人となって、そのうち僕の所に来る子のためにね。」
「アマラの話は?」
「文書として残してもいいけど、主になるのはシェケルの話だよ。」
「私は…何を話せばいいんでしょう?」
「来た道筋をそのまま話していいと思うよ。アマラの話みたいに話せばいいんじゃないかな。話したくないことは、そんなにないと思うけど、話さなくても支障がなさそうだったら伏せてもいいし。それと、この鍵は今回の旅で役目が終わったから、僕からはこれをあげるよ。」
トヤはシェケルに筒を手渡した。
「これは万華鏡?」
「そうだよ。次の子にはこの万華鏡を頼りに僕の所に来てもらう。引継ぎが終わったわけではないからね、これからどんな仕事が任されるのかは分からないけど、僕がずっと5代の旅人だけを気にかけておくわけにはいかないと思うんだ。だから、多少僕がうっかりしても辿りつけるようにしてあるから、次の子もきっと大丈夫。」
その時、大きな音を立ててクファナとダイアーが部屋に戻ってきた。
「ごめんってば。何それ?」
「万華鏡だよ。シェケルからの継承物になるんだ。」
「それがトヤの所に導いてくれるんだ?」
「そういうこと。全部終わったし、帰ろうか。」
「また跳んで、とか言うんじゃないだろうな。」
「残念ながらそうだよ。でも今度は痛くないから。」
不思議そうな顔をしたシェケルをよそに話は進んでいく。
「どこに送ってほしい?」
「じゃあ人間界の家に!」
「ここも人間界だよ。」
「そうなの?」
「そうだよ。じゃあ送るよ。」
「うん!またね!楽しかったよ!」
一瞬光ってダイアーは消えた。ダイアーが目を開けると、人間界のダイアーの家、巨木の前に立っていた。
「ほんとに家に送ってくれた!」
「シェケルは村の入り口でいいかな。クファナは?」
「あたしもシェケルの村の入り口。」
「あの、ありがとうございました。」
「また会えるといいね。」
シェケルとクファナも跳ばされた。
「ここは…村の入り口…。」
「行けるか?」
「うん。」
2人が村に入ると、シェケルの姿に気が付いた一人の子が駆けてきた。
「シェケル!戻って来たんだね!おかえり!!」
「ルワンダ!ただいま!」
それからというもの、シェケルは村で冷やかされることはなくなった。クファナは最初の契約の通り、仕事依頼が入らない限りシェケルの村に留まった。シェケルの願いで多少滞在期間が延び、その間、クファナは村の子どもに剣を教えた。普段は話しかけやすいクファナだったが、鍛錬の時間だけは、剣の稽古をしている子どもたちの周囲にクファナの怒号の嵐が巻き起こっていた。
クファナはシェケルの村を出て行ってからも、ダイアーを伴って時折遊びに来た。
第6代・5代の旅人、縮小魔法使いシェケルが亡くなってから、315年がたった。
ある日、第5代首位魔術師兼5代の旅人付魔術師トヤはとても、とても小さな異変を感じ取った。
同じ頃、時を経たシェケルの村では、再び「5代の旅人」が始まる兆しが現れていた。
シェケルの後継、第7代・5代の旅人は風使い。彼の名前はキリ。シェケルから語り継がれてきた伝説と万華鏡を手にして、トヤの後継者に会うべく、旅を始めようとしていた。
おしまい
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