シェケルは緊張ぎみにクファナに挨拶をした。
「初めまして、私はシェケルです。バヌアさんに紹介されて、小人の国に行く案内人にはあなたが適任だ、と聞いて来ました。」
「バヌア婆…。あの人、お節介だからな。何か言ってたろ?」
「時々帰って来て、いろいろ話を聞かせてほしいそうです。」
シェケルがそう言うと、クファナは眉をひそめた。バヌアお婆さん曰く、あまり仲良くないらしい。言われずとも、クファナの顔付きでそのこともすぐに察することができた。
「…で、シェケルを小人の国に連れて行ってほしいのは分かったけど、その理由は?」
「私の村で問題が起きていて…。それを解決するためには、小人の国に行くのが良いとバヌアさんから聞きました。」
「どっかの小隊の護衛かと思ったよ。いや、気にしなくていいよ。小人のとこか、あたしとしては、そんなところにわざわざ行きたがる奴は物好き、としか言いようがないんだよ。」
シェケルはバヌアに話したように「5代の旅人」の話をした。クファナは口を挟まずに最後まで黙って聞いてくれた。
「縮小魔法か。面白いね。気に入ったよ。引き受けよう。」
「ありがとうございます!」
「シェケルがあたしの主人だろ?あたしのことは呼び捨てでいいし、敬語は使わなくていいんだよ。」
クファナはシェケルのことが気に入ったから仕事を引き受ける、と言ったが、始めから引き受けるつもりでいた。ただ、初めて引き受ける相手の事を多少なりとも知っておこうとして聞いたまでだった。
「あ、そうだ、報酬の事なんだけど。」
「それは、どれくらいの…」
すっかり忘れていたのだろう。シェケルはだんだん言葉尻を弱めながら聞いてきた。そんなシェケルに苦笑いしながらクファナは答えた。
「別に取って食ったりしないよ。バヌア婆の家に帰りたくないからね、一緒にいた分だけシェケルの村にお世話になる、ってのでどう?」
「いいの?」
「雇われる奴がそう言ってるんだから。それに、仕事は定期的なものではないから、別にあたしがどこを歩いていようが誰も構わないんだよ。」
2人の契約が成立したところで、シェケル一行はどこの小人の国に行くかで悩むことになった。小人の世界、と一言で言っても、人間の世界同様、地域によって気候や服装、生活習慣がまったくと言っていいほど違うのだ。
「あいにく、あたしは鉱石とか詳しくないんだ。困ったね。バヌア婆みたいな何でも答えを知っているような人、滅多にいないからな。」
「小人さんに聞く方が早いかな?」
シェケルの一言で、まず小人の世界に渡ってから聞いて回ることになった。
しばらく歩いたところで、クファナが止まった。
「今回は縮小魔法使いがいるから、魔術師に頼らなくて済むから便利だな。」
「入口ってここから近い?」
「そこだよ、そこ。」
クファナが指さしたのはすぐ目の前の木の下の茂みだった。クファナが茂みをかき分けると生き物の古巣が出てきた。
「この『綺麗な』古巣の奥が知り合いの家に繋がってるんだ。シェケル、早速で悪いけど、縮小魔法を頼むよ。」
シェケルが念じると、2人の体が縮みはじめた。大体10㎝まで小さくなったところでクファナが止めた。
「こんなもんなんだ。さあ、行こう。」
クファナが差し出した手をとって、2人は古巣に踏み込んだ。
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