シェケルとクファナは古巣の中を進んでいた。
「向こうに着いたら、あたしから離れないで欲しいんだ。いくらあたしが護衛業を本職とする剣士をやってるとは言え、離れてしまったら護るものも護れないからさ。それだけ覚えといて。」
「分かった。クファナから離れなければいいのね。」
クファナはシェケルの方を向いて頷いた。暫く進むと、奥に木でできた扉が見えてきた。
「ここが入口だ。」
クファナは変わったリズムで扉を叩いた。程なくして、中から返答があった。
「どちら様?」
「クファナだ。」
そう答えると、扉が開けられた。中から現れたのは不思議な素材で作られた服を着た人。
「いらっしゃい。あ、連れがいるのね。こんにちは、私はマシュラ。花園系小人族って人は呼んでるわ。」
「私はシェケルです。…縮小魔法使いです。」
シェケルとクファナはマシュラの家で少しの間休むことになった。クファナが魔術師に頼んで、体を小さくして小人の世界に来る時は、いつもさっき通った古巣からマシュラの家の裏口から入り、変わったリズムで扉を叩くのは別の生き物と間違えないように、という2人の決まり事なのだ、とマシュラが話してくれた。
「そういえば、こっちにダイアーが来てないか?」
「来てるみたいよ。クファナからダイアーに用があるなんて珍しいのね。」
「シェケルが持ってる鍵の鉱石の出所が知りたいんだ。花園系だと鉱石は分からないだろう?」
「そうね。正直、種類までは特定できないわ。」
シェケルはマシュラにも見せたが、マシュラは首を横に振った。珍しい物だ、という判断がつくくらいで、それ以上は分からなかった。
「シェケルはもう行ける?」
「うん。マシュラ、ありがとう。」
「次に来た時はもっとゆっくりして行ってね。」
マシュラの家をでた2人はマシュラに言われた衣装室に行った。小人の世界には衣装室という名の服屋がある。地域によって異なる気候に合わせるため、周囲の小人の中に紛れるため(そうしないととても目立つ)、服を売買する。人間である2人の服は珍しいため、高く買い取ってもらえるはずだ、とマシュラは言った。
着いた衣装室には「HAPIの衣装室」と書いてある看板が掲げられている。
「『HAPIの衣装室』だって。…センスないよな。」
着いた途端クファナぼそっと呟いた。2人の姿を店の中から気づいた、細身の店主が出てきた。
「いらっしゃい!どんな服がいいかい?うちには多く揃ってるよ。」
「ここら辺の服と同じような素材ので、あたしは動きやすい服。シェケルは?」
「今、私が着てるのと似た形のものがあれば、それでお願いします。」
店の中に2人を通すと、店主は奥から2着の服を取ってきた。
「お前さん、見たところ剣術士だろ?だったら、これでいいだろうさ。」
クファナは受け取った服を見ていたが、頷いて着替えに行った。
「そっちのお嬢さんは、こんなのはどうだい?新作だよ。」
シェケルに渡されたのは白地で裾の方に緑の斑点があるワンピースだった。
「この生地…花だ!」
「うん?ここに来るのは初めてかい?ここは、花園系だからね、基本的なものは植物を使うんだ。その服、着ておいで、きっと似合うよ。」
シェケルはクファナの後を追って着替えに行った。
シェケルが着替えて出てくるとクファナは既に待っていた。
「2人ともよく似合ってるな。」
「この素材の花、なんていう名前ですか?」
「スノーフレークって言うのさ。そいつはきっと今年の流行さ。」
店主が服の話を滔滔(とうとう)と続けるので、困ったシェケルはクファナに目を向けた。クファナは小さき主人の無言の訴えを認めて、店主の話の腰を折った。
「おじさん、あたしらそろそろ行くから。」
「おお、そうかい、引き留めて済まなかったな。それでは、実り多き旅を!」
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