クファナは扉を素早く閉め、転がり込んできた相手に馬乗りになって短剣を突きつけた。俯せに倒されている人物はシェケルよりも小柄だった。クファナは相手があまりに小さいことを不審に思ったが、とりあえず、目深にフードを被り、顔を全く見せようとしない奴を問いただした。シェケルはクファナが出した声の低さに驚いた。
「誰だ?なぜ扉の外にいた?」
「…。」
クファナが聞いても何も答えなかったが、クファナには見えていない足首には見覚えのある「物」が括り付けてあった。シェケルは少しの間考えたが、きっとそうなんだろう、と思ってクファナに声をかけた。
「その子、放してあげて。」
「何するか分からないが?」
「大丈夫。」
クファナは暫くシェケルを見てから馬乗り状態を解いた。
「あたしの雇主に感謝することだな。」
「クファナ、ありがとう。それで、ダイアーは何でついて来たの?」
「ダイアーだって?」
「足首に『幸運の徴』がついてるから。」
ついさっきまでクファナに短剣を突きつけられていた人物は勢いよくフードをはねのけた。いつもとはどこか違うが、ダイアーだった。
「シェケル!気づいてくれてありがと!クファナは気づくのが遅いよ!半分くらい死にかけた!」
「…悪かったよ。で、その緑眼はどうした?いつもは金眼だろ?」
ダイアーの住んでいる(人間界の)大木には珍しい書物が多くある。それを頼りにして時折訪れる、仲良くなった魔術師に超初級魔術の「色替え」なるものを習った、ということだった。
「ちょこっとの間しかできないけど、使えるんだ!」
「魔術もいいけどな、何でついて来てるんだ?」
「キープ鉱山のクワームに会うのは嫌だけど、『5代の旅人』の使命って面白そうだったし。シェケルなら、一緒に来てもいいよって言ってくれそうだもんね!」
ダイアーはシェケルに期待の眼差しを向けた。シェケルはクファナを見たが、クファナは一言放っただけだった。
「雇主はシェケルだ。」
「じゃあ、一緒に行こう。」
「やったぁ!ありがとう!」
こうしてシェケル一行はダイアーを加えて3人になった。
翌朝、3人はキープ鉱山に向かった。今回は武装集団などの厄介者に会うことなく、無事鉱山入口に到着することができた。着いた途端、クファナは短剣を抜き放った。何も知らないシェケルとダイアーは本能的に後ろに一歩下がった。
「これで、鉱山主のクワームを呼ぶんだ。」
不思議そうな顔をするシェケルとダイアーを放っておいて、クファナは短剣を傍にあった岩に叩きつけた。すると高く澄んだ音が鉱山の中に反響しながら吸い込まれていった。
「きれいな音…。」
「これを聞いたら来客というか、あたしが来たって分かって、ここまで迎えに来る、はずなんだ。それまで休憩だな。」
凡そ15分後、坑道から足音が近づいてきた。クワームだった。
「久しぶりだな、クファナ。俺に何の用だ?」
「あたしは護衛、此方が今回の雇主のシェケル、このマント被ってる奴(ダイアー)はおまけだ。ここでビエンが採れるんだろ?ビエンをこの鍵にはめ込んだ300年くらい前のリエルって名前の魔術師の事が知りたい。何か分かることか、手掛りはないか?」
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