第6話 鉱山地帯へ

「ソッピアか…私は初めて見た。」

「ダイアー、あたしらはもう行くよ。」

「そっか。んー…じゃあ、シェケルにこれ、あげる!」

 ダイアーがシェケルの手首に括り付けたのは毬のような花飾りだった。不思議なことに紐と花飾りのつなぎ目がどこにもなかった。驚いているシェケルに目もくれず、ダイアーは話を続けた。

「これね、幸運の徴(しるし)って言うんだ。じゃあ2人とも気を付けてね。」

 ダイアーのいた大木から離れて行きながら、シェケルとクファナはダイアーがくれた、『幸運の徴』とやらについて話していた。長年ダイアーと親しくしているクファナの話だと、ダイアーは怪しい物(ぶつ)を数多く持っていて、実験と称してよく分からない事に人(特にクファナ)を巻き込むのが得意、ということだった。


 その日の宿で、シェケル一行は翌日のことについて話していた。

「明日は鉱山地帯に入るよ。その前に他の衣装室に寄って服替えだな。」

「もう服替えなのね。」

「あっち(鉱山地帯)は気候が違うんだ。場所的にはすごく近いのに、変な話だろ?」


 その頃、シェケルから聞いた『5代の旅人』の伝説が面白いと思ったダイアーは2人にこっそりついて行く計画を立て、その準備に追われていた。


 翌日、衣装室に寄って、人間の世界で言う冬服に着替えたシェケルとクファナは花園系小人族と鉱山地帯小人族の境界の巨大な門の前に来ていた。

「ここが関所…すごく大きいんだね。」

「向こうは冷たい風が吹き荒れていて、とにかく気候が荒い。気候が違う上に、何でも植物で作ってる花園系の住人が植物が傷むことを嫌がるから、この門ができたらしい。…よし、順番が来たから行こうか。」

 関所を越すと、クファナが言った通り、閑散としていて風が吹き荒れていた。空は一変してどんよりと曇って、全体的に薄暗く、シェケルには花園系と関所を隔てたすぐ隣だとは信じられなかった。

「人があんまりいないね。」

「寂しい所だよな。砂埃は酷いし、市場はなかなか開かないし、おまけに武装集団なんかも時々出てくるときた。まったくやってらんなくなるよ。」

「…武装集団、出るの?」

「大した奴は出てこないよ。あたしにしてみればただ刃物を振りかざしてるだけだね。そんなに心配になくても平気さ。そういう輩(やから)は大抵、腰抜けが多いから。キープ鉱山はまだ先だから、今日は進めるところまで行って、宿をとろう!」


 クファナが言うような武装集団は一度だけ出くわしたが、クファナが被っていたフードから目立つ赤髪見せ剣を抜くと、向こうから逃げて行った。

「相手が誰だか分かれば、ここの連中はあたしにちょっかいはかけてこないよ。」

 苦笑いしてクファナは言った。


 その夜の宿で、外があまりに静かなためにシェケルは不安げにベッドの端っこに座っていた。

「静かすぎて、気持ち悪いね。」

「そうだな。どこでもこんなではないけどね、鉱山地帯の人らは無口の人が多くてどんちゃん騒ぎとかやらないから、こんな静かなんだ。」

 クファナは扉の方を一瞥した後、机に置いてあったメモに手早く書きながら答えた。クファナがシェケルに見せた走り書きのメモには、「外で聞き耳立ててる奴がいる。部屋の隅へ」と書いてあった。シェケルは驚いてクファナを見たが、クファナは頷いて、いつもの調子でまた話し始めた。

「明日には鉱山に着くよ。あいつにわざわざ会わなきゃいけないなんて全く、ついてないね!」

 そして、音を立てずに短剣を鞘から抜いて、勢いよく扉を引き開けた。クファナの言った通り、聞き耳を立てていた人物が叫び(悲鳴に近い)と共に転がり込んできた。

「わぁぁっ!」

5代の旅人

初めまして。柊筮です。 ここでは、私の小説・イラストがメインをメインに載せています。 その他にも創作したものを載せていきます。 拙いと思いますが、どうぞよろしくお願いします。

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